高等部卒業生代表 答辞1

【高等部卒業生代表 答辞1】

とうとうこの日がきてしまいました。今日、僕は高等部を卒業し、長年の補習校生活に終止符を打ちます。何年間も共に過ごしてきた仲間達とも、補習校の生徒として集まるのは今日で最後です。今まで毎週当たり前のように通っていた補習校に、もう来週から通うことがなくなると思うと、自分の中に大きな穴が空いたような気持ちになります。 僕にとって補習校が何故こんなに大きな存在なのかというと、それは現地校の自分とは違う、唯一本当の自分をさらけ出せる場所だったからかもしれません。だんだん難しくなってくる現地校の勉強との両立は、大変な時もありましたが、補習校では思いっきり素の自分になって、日本語でくだらない冗談を飛ばして笑ったり、昼休みに友達とバスケットで汗を流したり、普段のストレスを発散する事が出来ました。
 補習校生活の中で特に思い出深いのは、運動会です。LI校の運動会は、幼児部から高等部までが一緒になって行う、他の学校では味わえない素晴らしい行事です。僕は二年間応援団に関わり、自分で言うのも少し恥ずかしいですが、応援合戦の約十分間だけ、天下無敵の「白組マン」に変身しました。顔を白く塗ってサングラスをかけ、マントをはおり、幼児部の小さな子ども達からは変なおじさんと怖がられながらも、声が枯れるまで大声を出しました。必要以上に騒ぎまくり、その日は自分の全てを出し切りました。日常生活では味わう事の出来ない達成感を感じる事が出来ました。
 今まで以上に補習校に関わりたいという気持ちから、僕は二年間、生徒会活動に携わりました。最後の一年は、補習校ではじけたいと思い、会長を務めました。球技大会の企画・運営、幼初等部と中高等部との合同運動会、募金活動など、週一回の補習校でみんなの意見をまとめることは大変でしたが 苦労が大きかった分、達成感も大きく、生徒会活動を通して学んだ事は数多くありました。
 補習校では、楽しい行事だけでなく、素晴らしい先生方にも出会えました。先生方は教科書の勉強だけでなく、いろいろなことを経験されてきた大人として、またアメリカに住んでいる日本人として、たくさんのことを教えて下さいました。
 僕は高等部に入ると、補習校の名物先生とも言えるT先生の小論文の授業を受けるようになりました。先生は、教師生活28年という、補習校の大ベテラン先生です。昨年秋に引退されて日本に帰国されてしまいましたが、補習校でのT先生の存在はとても大きなものでした。そして、その先生がよくおっしゃっていたことが、僕達の「アイデンティティー」です。僕達はアメリカに住んでいても、完全なアメリカ人にはなれず、日本語を話せても完璧な日本人ではない、とても中途半端な存在です。先生はその中途半端な僕達の存在を、逆にポジティブな存在としてとらえることを教えて下さいました。両方の文化を知る僕達だからこそ、いつか日本とアメリカを繋ぐ架け橋になれるのでは、とも思えるようになりました。
 さて、「世界がもし100人の村だったら」という文章を皆さんは読んだことがありますか?ご存知の方も多いと思いますが、授業中、先生に紹介していただきとても感動したので、ここに短い抜粋を紹介したいと思います。
 世界がもし100人の村だったら、その村には、57人のアジア人、21人のヨーロッパ人、14人の南北アメリカ人、8人のアフリカ人がいます。70人が有色人種で、30人が白人。6人が世界全体の富の59%を所有し、その6人ともがアメリカ国籍です…80人は標準以下の家に住み、70人は文字が読めません。50人は栄養失調に苦しみ、一人が瀕死状態にあり、一人は今生まれようとしています。一人だけが大学の教育を受け、そしてたった一人だけがコンピューターを所有しています。
 もし、冷蔵庫に食料があり、タンスに着る服があり、頭の上に屋根があり、寝る場所があるのなら、あなたは世界の75%の人たちより裕福で恵まれています。友達の皆に、このメッセージを伝えてください。そしてその人の一日を照らしてください。あなたが、一歩を踏み出さなければ、何も事は始まりません。」
 僕達は当たり前のように朝起きて、屋根のある家から学校に通い、暖かい布団にくるまって寝ていますが、世界中には学校にも行けず、母国語さえ読めない人が70%もいるのです。それに比べて僕達は、二ヶ国語どころか、三ヶ国語さえ学ぶチャンスも与えられているのです。僕は、アメリカに暮らしていながら日本語を学ぶことができるこの恵まれた環境に、深く感謝しなくてはいけないと思いました。しかし、それ以上に大切なことは、広い視野を持ち、様々な人種や文化の違いを理解すること、そして自分より恵まれない人たちは可哀想だと奢ることなく、今自分が出来る事から一つずつやっていく事だと思います。自分自身をしっかり見つめ、物事を深く考える事を教えてくださった先生に、とても感謝しています。このことは、補習校を旅立つ僕にとって大きな財産となると思います。
 今までお世話になった多くの先生方、校長先生、T教頭先生、父母会の皆様、本当に長い間ありがとうございました。そして、僕を十一年間、毎週補習校に送ってくれた両親にも心から感謝しています。
 最後になりましたが、この日まで一緒に補習校に通いつづけた十二人のクラスメートのみんな、本当にありがとう。僕は補習校で経験した事を一生の財産として、これからも頑張っていきたいと思います。
 本当に皆さん、ありがとうございました。

コメントは受け付けていません。